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2004/10/04

美しい魂

米原で乗り換えてから、
福井に向かう車窓から見た景色が、なんだかヤケに心に
染みた。

 駅で宮本徹也さんに迎えていただき、車で
講演会場に向かう。ホールの前には、美しい水田が
広がり、なにものかの気配が、心の奥まで吹き込んで
くる。

 昼食を用意していてくださるというので、てっきり
弁当だと思っていたが、
 トレーに載せてまるで家庭で出されるような
ハンバーグ定食。
 楕円形のテーブルの気配が美しい会議室で一人静かに
いただいた。

 土地の精霊のようなもの、人々の心のかたちのような
ものが確かにある。
 思えば、ハンバーグ定食の頃から、私は越前の精霊に
打たれていたのかもしれない。

 会場を見渡すと、退職された後の方が多かった。

 いつもの語り口とは変えて、いかに脳をいきいきと
使うか、というような方向で話をした。

 金沢から来てくれた吉田遼平クンも合流し、宮本
さんと養浩館庭園にいく。
 そこに、八杉ふじ子さんがいた。

 お幾つくらいか。六十半ばだろうか。殿様の
入っていた風呂の床が、中央に向かってゆったりと
傾斜していることを、丁寧に説明してくださっている
うちに、ふとどこからか写真のアルバムを持って来た。

 「雪がたくさん降った時に撮ったんですよ」
と言いながら、プリントを次から次へとくださる。
 裏にカタカナで「ヤスギ」と書いてある。

 まさか写真をくださるとは思わなかった。
 まるで、どこかの家庭におじゃまして、写真を
見せていただき、おまけにプリントももらって
しまっているかのようである。
 説明員の職務を遂行している、というようなものでは
ない。
 あくまでもヤスギフジコさんとして、
一人の人間としてそこに立っている。

 こんなものの気配に、最後に触れたのは一体
いつのことだったか。

 人間の脳は、今までの枠組みで捉えきれない
事態に出会うと、とまどい、そして時には
深く感動する。

 前の池からの西日の照り返しが養浩館の天井に、
柱に、ふすまに映り、その中で美しいたたずまいの
ヤスギフジコさんが丁寧に説明してくださる光景に、
私はなんだか深く動揺した。

 写真を下さった八杉ふじ子さん。ありがとう。

 人は、美しい心を持っているだけで、美しい気配
を漂わせることができる。
 内面はにじみ出てくる。

 その美しさが容易に流通しないからと言って、
何だというのだろう。
 眼を閉じれば、日本の各地で、世界の各地で、
美しい魂を持って日々生きている物言わぬ人たちの
姿が浮かびあがってくる。

 インターネットの強欲と浮かれ騒ぎよ、さらば。

 寿司屋で吉田君と飲んでいたら、宮本さんも
来た。
 剣道をやっていた二人は談義を始めた。
 私は静かに酒を飲んだ。
 
 7時16分の白鳥で帰る。

 東京に近づくにつれて、慣れ親しんだ乾いた
文明の気配が強まっていった。

10月 4, 2004 at 07:44 午前 |

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