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2004/10/20

そば屋で魂について考える

NHKに行く時の楽しみは、明治神宮の森を
抜けることであるのに、
 いつも、遅刻してタクシーで行く。
 失敗から学ばないおろかものである。

 論説委員の舘野茂樹さんといろいろお話する。
土曜塾の室山哲也さんは名古屋出張中ということで
お会いできなかった。

 舘野さんはアートに造詣が深いのだけども、
昨日は文学の話をした。
 夏目漱石、菊池寛、金子光晴が日本における
個人主義を確立したのではないか、というのが
舘野さんの説。
 金子光晴はまだちゃんと読んでいないので、
今度読もうと思う。

 「視点・論点」(ボディ・イメージ)の
 収録を終え、ほっとして、
渋谷公会堂の横のフォルクス
でステーキを食べながら仕事をする。

 時は流れ、御成門の青松寺で、仏教者の
南直哉さんとお話する。

 南さんは、「意識とは何か」(ちくま書房)を
読んでくださって、最初の数ページでこれはやばい!
と思ったそうだ。
 永平寺で修行していた時、科学者が、座禅中の
脳波を取りに来ているのを見て、ふん、こんなことを
やっているうちは、科学は決して意識の謎など
解き明かせないな、と安心していたという
のである。
 それが、クオリアというアプローチだけは、
やばい、と思ったというのである。
 
 「茂木さんのクオリアというアプローチは
仏教で言う「正しい道」だと思う。しかし、この
人が果たして問題を解けるかどうか、それは
判らない。いや、むしろ解けない可能性が大きい
のじゃないか、そう思った」

と南さんは言うのである。

 南さんとお話していて、ああ、私はこういう
人を探していたんだなあ、と思った。
 聖と俗ということを良く言うが、私の言う
「俗」とは、つまり、究極的に言えば底が抜けている
ものにそれと気づかず身を寄りかからせている
態度のことである。
 南さんは、きわめて自覚的な仏教者であるから、
たいていのものの底が抜けている、ということを
見据えている。

 「私」の底は抜けている。
 「世界」の底は抜けている。
 「言葉」の底は抜けている。

 そのような感覚を共有し、厳しさと歓びの
入り交じった思索を積む、という点において、
南さんの仏教者としてのアプローチには深い共感
を禁じ得ない。

 仏陀は、何しろ過激な人だった。しかも生命に
賭けた人だった。精神の生命とは何か? かりそめ
の概念や基盤に寄りかからず、懐疑し、模索し、
解体し、再構築することである。それは南さんの
言うようにきわめて苦しい行為だけども、それが
同時に精神がもっとも生き生きと躍動することなど
だから、それ以外にこの世にやりがいのあること
などない。

 仏陀は、結局生きたかったのである。人間精神の
根源的な潜在力において、生きたかったのである。
やがて老い、死に行くという人間が逃れ得ない
根本条件を見据えて、そのまなざしの中で世界を
解体し、再構築したかったのである。

 科学者など生きてはしない。
 アーティスト気取りのばかどもなど生きてはしない。
 ネット企業の社長など生きてはしない。
 つまり、それが「俗」ということだ。

 こんなことを書いたとしても誰にも感謝されない
のが現代だと思うけれども、
 そんなことを考えざるを得なかった、南さんとの
充実した対話の時間であった。

「考える人」の次号(12月28日発売)に掲載される予定。


英文による記録は、
To share the problem, not the answer.
Qualia Journal

 虎ノ門砂場で、新潮社の北本壮さん、金(キム)
さんとそばを食べながら懇談。
 伊坂幸太郎さんが以前の私の日記(8月16日
付)を読んでショックを受けた、ということを
伊坂さんの担当編集者が言っていた、と北本さん。

 私は動揺して、そばの味がわからなくなった。

 伊坂さん、ごめんなさい。伊坂さんの小説が
完成度の高いものであるということはあくまでも
前提として、あの時は現代というものを論じた
わけで、他意はありません。
 今度機会があれば南さんと3人で現代における
人間の魂の問題について話してみませんか。

 その時、酒とそばがあればなお良し。

 みなさん、台風が近づいて来ているので、
しみじみと魂の問題について考えるにはちょうど
良い雰囲気です。

10月 20, 2004 at 07:51 午前 |

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コメント

おめでとうございます!
茂木さまも蕎麦好き?
なんか嬉しい。。

投稿: SK | 2004/10/20 8:48:07

南さんとの対談は、次の「考える人」に掲載される分なのでしょうか?楽しみです。
たしかに、雨降りというのはいろんなことを深く考えるのにはむいているような気がします。「魂」のことは、最近自分の中でとても気になっている問題です。これから通勤ですが、せっかくなのでしみじみと考えてみます。

そうそう、茂木さん、お誕生日おめでとうございます。

投稿: wabisuke | 2004/10/20 8:26:53

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