「一回性」や「多様性」によって
科学は、ある対象を研究する時に、環境から「切り離して」その属性を明らかにしようとする。実験室の中で閉鎖された容器の中に入れるというのが典型的な例である。そうして、環境との相互作用がある場合にも、その相互作用の内容をあらかじめ実験者がコントロールしようとする。そうすることによって、初めて、研究の対象としているものの性質が明らかになると考えるのである。
脳科学においても、このような研究手法は踏襲されている。被験者の脳を閉鎖的な環境において、その上で相互作用を特定する。何回も繰り返し実験して、再現可能な結果を求める。データを統計検定して、有意な差があるかどうかを探索する。そのようにして、脳科学の論文は書かれている。
しかし、このような伝統的なやり方は、脳が本来持っている柔軟な機能の一断面を明らかにするものの、その本質には今一つ迫りきれない側面がある。脳は、本来オープンでダイナミックなシステムである。常に外界とのやりとりの中で、その機能を発揮する。そして、相互作用は、「一回性」や「多様性」によって特徴付けられる。
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コメント
もてぎ先生の、PHP研究所【読む、書く話す 脳活用法」を拝読いたしました。どんなお勉強も<国境の長いトンネルをぬけると>開けてくる世界があるのだなあと思いました。わたくしは、苦しいとそれは自分には向いていない、と中途挫折の星のもとにあると、自分の弱さをごまかして生きてきましたけれど、これからはもうすこし忍耐して続ける勇気を持ちたいと思いました。もてぎ先生は、とっても早起きでいらっしゃいますね!毎朝、更新されていらっしゃるので、とっても励みになります。ありがとうございます。
投稿: prince7 | 2010年1月25日 (月) 08時37分
この記事を読んで、ふと思いましたが、「脳をある条件下に置く」というのは非常に難しいことなのではと思いました。
投稿: クワガタ | 2010年1月25日 (月) 13時10分
おはようございます 茂木サン 。
脳は 外界からの刺激や 情報により、反応するものだとおもいます。
他の例えば 体の一部(臓器)と違う、だから データの結果が出にくいのでは。
または 異常に良き結果が出せたりすると思います。
その好転反応は 脳が喜びに感じる事や 思いなのでしょう。
個人の何かに 心動かされる = 脳がより発揮されるのでしょう。
普通のこと<好きなこと<楽しんでいること 。
感情と深い繋がりがありますね。
投稿: サラリン | 2010年1月26日 (火) 02時02分
先生のおっしゃる通り、脳は同じ状態であることはあり得ませんから、科学的方法で厳密に再現するのは不可能なのかもしれません。そこに従来の科学とは異なる脳科学研究の難しさを感じます。
それから、脳はオープンシステムな開放系であるという先生の考えに思うところがありました。バタフライ効果といいますか、どんな小さな記憶でも他の脳全体に何らかの影響を及ぼしているのではないかと思います。先生のおっしゃっている脳の中に豊富な教養を蓄える意味もそこにあるような気がしています。直接役に立たなくても豊富な教養を得ることは脳にとっては重要なことのように思えます。
投稿: TAKEO | 2010年1月26日 (火) 23時59分