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2010年1月 3日 (日)

クレイジーなプロフェッサーへの道

 後でうかがうと、有吉伸人さんたちが私に会いに来たのは、その前の週に私が朝日新聞社の雑誌「AERA」の表紙に登場したことがきっかけだということだった。細田美和子さんが、表紙を見て、この人に会いに行こう、と提案したと聞いている。
 この、「AERA」の表紙で、私は私にしては整った髪型で写っている。これには、ちょっとした理由がある。
 私は、1995年から1997年にかけてイギリスのケンブリッジ大学に留学していた。髪の毛が伸びてきた時、いろいろと迷った。ケンブリッジの街の中で床屋に行くと、誰か知り合いに会いそうで、恥ずかしいなと思った。そこで、ロンドンに行ったついでに髪の毛を切ることにした。
 ケンブリッジからロンドンまでは、電車で1時間余り。ロンドンには時々出ていたから、髪の毛が伸びる度に出ていけばいいんだろう、と思った。
 ロンドンはさすがに首都で、お洒落な店が多い。しかし、ポッシュな店に入るのは恥ずかしかった。だから、できるだけ地味で、かっこいい人はあまり出入りしないような所にしようと思った。
 大英博物館からレスター・スクエアに向かって歩いていく途中で、ちょうど良い店を見つけた。確か、地下に降りて行くところだったと記憶している。おずおずと入っていくと、いかにも人の良さそうなおじさんが二人で迎えてくれた。
 店内は空いていて、私はすぐに案内された。
 聞くと、ギリシャのキプロス島出身の兄弟だと言う。「髪の毛を切ってくれ」というと、ウィンクして席へと案内された。
 それから約1時間。髪の毛を切っている間、ずっとキプロス島の話をしていた。私は行ったことがないのだけれども、とにかくキプロス島の話を聞いた。髪の毛を切っている間、ずっとキプロス島の話をしていた。それで、終わる頃には、どうもヘトヘトになってしまった。
 再び髪の毛が伸びて、次に切る段になった時、はたと考えた。ケンブリッジの中で床屋を見つけるのは面倒臭い。かといって、またあの床屋に行って、キプロス島の話を一時間するのもいやだ。
 それで、思い切って、自分で切ってしまうことにした。下宿の部屋で、ハサミを持って、いよいよ切ってしまおうと鏡に向かった時、何とも言えない罪悪感が込み上げてきたことを覚えている。子どもの頃は、近所で行きつけの床屋があった。終わると、ボンタン飴をくれた。今思うと、鹿児島出身の人だったのだろう。
 自分で髪の毛を切る、ということは、それまでしたことがなかった。当時私は33歳。むちゃくちゃな髪型になるんじゃないかと思ったが、えいやっとルビコン河を渡った。
 そうしたら、何ということはなかった。後ろの方が難しかったが、手で触りながら、勘でなんとかやった。もともともじゃもじゃの髪型である。少々でこぼこがあっても、あまり目立たないのだと気付いた。
 翌日、ケンブリッジ大学生理学研究所内の研究室に行くのがちょっとこわかった。グレッグが、私の髪の毛を見て、「あれ、切ったんだ?」と言った。「うん。自分で切ったんだよ」と言ったら、驚いて、「クレイジーなプロフェッサーへの道を一歩踏み出したな!」と叫んだ。(続く)

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コメント

おはようございます。茂木先生の髪型は、とても自然な感じで、先生にお似合いです。ご自身で髪を切られているようには見えません。なににでもナチュラルさは大切な生き方ですね!

投稿: すずな | 2010年1月 3日 (日) 09時28分

茂木さん 初にメール致します。
プロフェッショナルを拝見いたしております。

小生も思い出しますよ・・・学生の頃にロスに居まして・・・遊学しておりました。 床屋はあるのですが
やはりロスの郊外(ラ・クレセンタ)なので、床屋はいかず自分でやりました・・・掃除機の先に付けて、とっちゃん坊やでした。思い出しますね。最初はどうなるか・・??心配でクラスメイトに冷やかされた思い出があります。

4年前までは世界中を旅の仕事でまわりました。約35年間です。いろんな体験や人の出会いがあり、涙や笑いの日々でした。

現在は新潟の片田舎で温泉を経営しております。
新潟では有名です・・・・かのせ温泉赤湯です。
驚きの温泉なので・・・時間が出来ましたらぜひお越しください、お待ちしております。
これを機会に時々話しができればと思います。
            感謝 ただ 感謝

投稿: 社長っす | 2010年1月 3日 (日) 13時40分

いきなり私事で恐縮ですが、最近は、あまり値段のはる『ポッシュ』でキャッチーな美容室には入らずに、1000円前後でカットしてくれる、きょうび流行りの格安サロンに入ってヘアカットしてもらってます。

例のAERAの表紙、見たことがあります。当時は茂木さんについては少しは知っていたけれど、まだ強烈な印象を持っては居なかった気がする。そういえば、今よりも心なしかジェントリーな(?)ヘアスタイルに落ち着かれているように見えたかも・・・。

でも、私は今の茂木さんのもじゃけた無造作なヘアスタイルが大好きなのです。クレイジーで、素敵なプロフェッサーにふさわしいスタイルだと思う。

こういうとまた恐縮ですが、このままきれいな銀髪になるともっと、素敵に見えるかも・・・。

投稿: 銀鏡反応 | 2010年1月 3日 (日) 22時14分

明けましておめでとうございます。

昨年末、修善寺駅で茂木先生にサインと握手の強要をした者です。
本当にありがとうございました。
あの時、先生はうつむいていましたが、私は先生の髪型だけで、先生の存在を確信しました。もちろんオーラもあったのでしょうが。

今年も活躍を期待しております。
頑張ってくださいね!

投稿: 鈴木 | 2010年1月 3日 (日) 23時56分

茂木サンが、「 プロフェッショナル 仕事の流儀 」番組とのきっかけも
運命的な感じですね。
茂木サンの 積み重ねてこられたら成果が、
認められ、行動、結果となる。

常に何か(情報)を取り入れようとする気持ちを持ち、
直感と 分析、そして行動 !
有吉さん、細田さん ありがとうございます。

投稿: サラリン | 2010年1月 4日 (月) 06時40分

髪型について、皆さん受け入れ派ですね~
私は年に一回ほど、我慢なさって理髪店でカットしてもらい、あと、伸びてきたら、それに沿ってまんべんなくカットすると、一年一回のプロの技が生きるので、
時にプロをお試し派です

これは、私の秘伝です!(笑)

世の中には、その道のプロが何処にも、いらっしゃるのです、茂木先生の様に^^

キプロスのお話もないし、
何といっても、人様にシャンプーしてもらう気持ちよさは最高な贅沢! 寝てればいいのですから・・

私は、贅沢におぼれないように、一年に1,2回の贅沢をしています、女性なのに^^

チャップリンの映画に出てくる床屋さん
あんな魅力的な人に出会えるかもしれませんよ、

毛嫌いせず、探してみてください(笑)はははぁ~~

         reiko.G

投稿: R.グランマ | 2010年1月 4日 (月) 13時07分

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