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2009年5月22日 (金)

海に相当するもの

水中写真家の中村征夫さん 
がゲストでいらした。

世界各地の海に潜り、はっと息を飲むような
魚たちの表情をとらえてきた中村さん。

『海中顔面博覧会』 のように、魚の
顔ばかりを集めた写真もある。

 スタジオには中村征夫さんの写真が
たくさん並べられ、それを見た住吉美紀さんが
「うわー、きれい」と感嘆した。

 住吉さんはきれいなものが大好き
なのである。

 「魚を正面から撮るのは難しいんじゃ
ないですか」と中村さんに聞くと、
「気配を消すんです」と言う。

 潜水し、魚の近くで20分でも30分でも
じっとしていて、カメラの動きもほんの少しずつ
にして、要するに海の一部として風景の
中に溶け込むと、ようやくのこと
魚たちの素顔を撮ることができるというのである。

 「魚は、決して追いかけてはいけません」
と中村さん。

 海の中で、素敵な魚を見かけて追いかけよう
としても、追いつくことはできない。

 10メートル先でこちらを見ながら、
追いかけるとまた10メートル先に
いて、というように、泳ぎ去らなくても
距離をとられてしまうのだという。

 だから、海の中で魚に出会おうと
思ったら、漂って気配を消しておくしか
ないのだと中村さん。

 海の一部になれば、魚たちは
自分たちの方から周囲に泳いできて
くれるというのである。

魚たちの姿は、千変万化。

「その姿を見ているとねえ、ああ
やっぱり神様っているんだなあ、こんなに
いろいろな生きものがいるんだなあ、って
思うんですよ。」と中村さん。

海の中では、どの生物も真剣に生きている。
真剣に生きなければ、その命をつないでいく
ことができない。

その姿に心打たれるのだと、中村さんは言う。

それに比べて、人間はどうか。文明を築きあげ、
真剣でなくても生きていけるように
してしまった。

もっとも、良い仕事をしている人は、
やはり、海の中の生きものたちと同じように、
真剣に生きているように思う。

中村征夫さんのライフワークは、
東京湾の生きものたちの写真を撮ること。

1988年に出版された
『全・東京湾』
と展覧会『海中顔面博覧会』が対象となり、
中村征夫さんは木村伊兵衛写真賞を受賞する。

30年以上にわたって東京湾の生きものたちを
撮り続けている中村さん。

それでも、そのごく一部分しか見ていないし、
撮れていないのだと中村さんは言う。

「写真家は、言葉を尽くす必要はない」
と中村さん。

作品が全て。できあがったものが、
世の中に流通し、人々の心を動かし、
そして時に世の中を変えていく。

「どんな仕事でも、そうではないでしょうか」
と中村さん。

「自分は黙っていても、作品が語ってくれる。
何を言わなくても、全てを伝えてくれる。」

写真には、それだけの力があるのだという。

「その作品に力があって、人々を
感動させれば、作者は誰かということが
たとえわからなくても、それはかまわない。」
ずっと後になって、ああそうか、
あれはあの人が作っていたのかとわかる。
そういうのがかっこいいね、と中村征夫
さんは言う。

大きなものに向き合っている人。
中村征夫さんから深い印象受けた。

私は学生時代から中村征夫さんの作品に接していて、
その何とも言えない魅力的なお人柄に
惹き付けられていた。

椎名誠さんが監督し、中村征夫さんが
撮影した映画『うみ・そら・さんごのいいつたえ』
の上演会に行き、舞台挨拶をする中村
さんの姿を見たこともある。

初めて親しくお話させていただいて、
海という圧倒的に大きく、自分の力では
どうすることもできないものに向き合ってきた
中村さんの世界観に感銘を受けた。

どんな仕事でも、中村さんにとっての
海に相当するものはあるのではないか。
それを探さなければならないのではないか。

一生かかって探求していても、ごく一部しか
知り得ないもの。どれだけ努力しても、
自分の力ではどうすることができないもの。
思わぬ驚きをもたらし、啓示を与え、
時には包んでくれるもの。

そのような大きなものに向き合う
人生は、幸いである。

その時、人は謙虚になるものではないか。

収録が終わって、中村征夫さんと
懇談する。楽しい時間を過ごした。

有吉伸人さんが、中村さんの話を
聞いて深く肯いている。

ディレクターの末次徹さん、
デスクの柴田周平さんと熱い
握手をかわす。

中村征夫さんの手は大きく温かかった。
中村さんは、末次さんといっしょに、
「やあ」と風のように去っていった。

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コメント

私は黒鯛釣りが好きですが

黒鯛は海底にいるのが多く
海底を意識して釣りをしていると

海底 海底 海底

深海魚でも釣っているの?自分

海底と申しても、その水深ですので

数メートル程度です

なんだかな、と思いつつ
また海底!海底と意識して釣りです

投稿: TOKYO / HIDEKI | 2009年5月22日 (金) 10時00分

茂木健一郎様

「プロフェッショナルたちの脳活用法」
脳科学者としての茂木さんの解説が
とってもしっくりわかりやすく
有意義に拝読させていただいております。
ありがとうございます。


中村さんの生き方からも
とっても大きな
メッセージをいただいたように思います。

いきづまるようなことがあったら
中村さんについて
茂木さんが書かれたここへ
来させていただけたらと思います。

投稿: Yoshiko.T | 2009年5月22日 (金) 10時28分

はじめまして、茂木先生!

今、「脳にいいことだけをやりなさい!」を読んでます。もうすぐ読み終わりそうです。
先生自信も「幸せの国の百人」ですか?

いかに幸せに過ごせるかは自分次第なんですね!
たくさんの発見と自分への自信のようなもの、自分を好きでいていいんだと再認識できました。

この本もしかり、テレビでのアハ体験も、もちろんこの番組も、その後には晴れやかな気持ち、前向きにりますね。

まだ脳の世界の入口ですが楽しく過ごせてきています。脳の勉強をしてみたくなってるこの頃です。

これからも先生の穏やかパワーをまき散らしていって下さい!!

投稿: ミロ | 2009年5月22日 (金) 11時19分

 海の中で漂って、海の一部になる…
 どんな感じなんだろう、としばらくぼーっと想像していた。
 中村さんの番組を、漂いながら生み出された作品を、楽しみにしています。

投稿: masami | 2009年5月22日 (金) 11時50分

こんにちは。プロフェッショナル の中村サン 海中写真放送楽しいです。 カメラマン という職業は感性、見えているものを見えにくい場の雰囲気や対象物の感情をキャッチして、表現するお仕事だと思います。 自然の厳しい中、動植物や人、景色など 良い瞬間を切り取る。カメラマンの柔らかさが被写体の良い表情を引き出すと思います。それに忍耐強くないとできませんね。 今度写真集も探してみます。

投稿: サラリン | 2009年5月22日 (金) 14時19分

茂木先生 こんにちわ

(*'▽'*)ワァ♪うみ・そら さんごのいいつたえの方だったのですね。
あれ 私も好きです

中村さんの
>ああ やっぱり神様っているんだなあ、
こんなに いろいろな生きものがいるんだなあ、
って 思うんですよ。

には『そぅそぅ 細かい所までチャント作られているしね~。』と 心から うなずき

>・・そのような大きなものに向き合う
人生は、幸いである。

その時、人は謙虚になるものではないか。

と言う中村さんの(到着点の無いような)世界観にも

『そうでしたよ』と
つい うずめてしまいがちな
”謙虚でいこう ”と 決心した時の自分の気持ちを
掘り起こしました。

30年のベテランなのに 高飛車にならない
中村さんのセリフ。お仕事に対する構え方を見習おうと思います。

また 個人的に 言葉のそとで お仕事をしている人の お話は
いつもとても 面白く感じる事が多いな と思いました。
Σ(*゚ェ゚*) 茂木先生は別のグループですよ~

投稿: Lily | 2009年5月22日 (金) 19時46分

茂木先生

探さないといけないのですよね…
私も心からそう思い 今手探りながらも少しづつ進んでいます
この世に生まれて来て、果たすべき使命があると信じて…f^_^;
感覚で読むことができとても楽しかったです
有難うございました
茂木先生も風邪に気をつけて下さいね

投稿: たかこ | 2009年5月22日 (金) 20時43分

ずっと前に、中村征夫さんの『海中顔面博覧会』を都内某所の書店で読んで、こりゃぁ、魚もまさに十人十色、個性様々、表情が生き生きしているなァと感じ入った覚えがある。

何と言っても写っているみんなの目が生き生きとしていたのが印象に残った。

おそらくは、文明を拵え、そのなかでのうのうとしている我等人間よりも、こういう海の世界の住人たちのほうが、何が起こるかわからぬ、弱肉強食の法則が働いている海の世界で日々真剣に生きているぶんだけ、個性が豊かで、とんがっているのに違いない。

中村さんのように、途轍もなく大きく、厳しく、時には大きく包んでくれるものに向きあえば、人はきっと謙虚になれる。そんな気がした。

投稿: 銀鏡反応 | 2009年5月22日 (金) 21時04分

久々に覗きにきましたが、こちらにも新しいページが増えていたんですね

「クオリア日記」と、内容の棲み分けをされ始めた様ですので、両方見ないと活けない?ことになりましたネ

それはそれで、楽しいですネ
ツ(^o^)シ

投稿: ほっとあいず | 2009年6月 6日 (土) 17時05分

中村征夫さんの中には、海に育てられた海がある。
他の人たちが通り過ぎてしまうような小さなことが、その海に大きなうねりを、ざわめきを、時には荒波を巻き起こしているのに、その表面は静かな波打ち際のように穏やか。
人はこんな風に存在することが可能なんだ、と釘づけになった中村さんの表情や声がまだ私の中で響いている。

今の私の中は空っぽ。
それと同時にたくさんの言葉が、思いがあふれ出しそう。
ごしゃごしゃになってあふれてきそうだから、今は海の上を静かに漂っている

投稿: masami | 2009年6月22日 (月) 08時43分

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