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2007年1月19日 (金)

競争原理

プロフェッショナルの収録、
ゲストはマサチューセッツ工科大学教授の
石井裕さん。
 今までに63名のノーベル賞学者を
輩出した理工系大学の名門の
「メディアラボ」で教授をされている。

 専門は、石井さんご自身が考案した
tangible bitsという言葉で
表される、新しいユーザーインターフェイス
の分野。

 しかし、その思索の範囲は、
「ユーザーインターフェイス」という
言葉に収まらない。

 石井さんのお話をうかがうのは
久しぶりで、
 お会いするのが楽しみだった。

 期待に違わず、
 おそらく、今までの収録の中でも
最長不倒ではないかというくらいの
盛り上がり。
 
 これを、一体どのように15分の
トークに編集するのだろう
と思うくらいの内容に満ちていた。

 いつものことだが、放送でカバー
できない部分はNHK出版から
出される本で読んでいただくしかない。

 石井さんのお話で、もっとも
印象に残ったことの一つは、
 日本とアメリカでは、「競争」の
意味合いが違うということ。

 MITでは、教授としてテニュアを
得るためには、
 「それまで誰もやっていなかった
分野を切り開いた」
 パイオニアであることが
最重視される。

 一方、日本では、「競争」とは
往々にしてすでに敷かれたレールの
上での「点数」争いを指す。

 「新しいものが、数値化できる
はずがないじゃないですか」
と石井さん。

 その明確な論理が、ノーベル賞を
輩出する風土へとつながっているのであろう。

 昨今の日本の競争原理とは、
ルールを決めて、
 「プロクルステスのベッド」で
新しい芽生えを切り取る、
 「談合体質」になりかねない。

 MITのような競争だったら、
さわやかだし、
 人類の未来を切り開く。

「独創的なことをやればやるほど、
誰にも理解されない、孤独な境地に入って
いくんですよね。
そうなったら、しめたものだと思うんですよ。」

 石井さんは情熱的に早口で喋る。
 自分の感じていること、考えている
ことを全て言葉にしないではおかない、
というような執念のようなものを感じる。

 もともと、日本は、そして恐らくはイギリス
のようなヨーロッパの伝統社会は、
 暗黙知を大切にすることを前提にしていた。

 何でも明示的に表現するというアメリカ
の流儀は、様々なバックグラウンドの人々が
集まる移民社会ならではのものだったのだろう。

 それが、インターネットの発達により、
世界がスモール・ワールド・ネットワークで
結ばれるようになって、 
 日本人もまた、自らのことを明示的な
言葉で表現せざるを得ない状況になってきた。

 アメリカ一国のことだと思っていたのが、
全世界の様々な文化圏に一様に降りかかる
事態となってきたのである。
 
 石井さんの研究のモチベーションの
一つが、
 お母様を亡くされたという「喪失」
に基づくという話に心を動かされた。

 新生児が「ママ、ママ」というのは、
目の前から母親が消えたことによる
不安を打ち消すためであるという説がある。

 創造とは、その中に深く沈潜して
いけばいくほど人間の本質が露わになる
不可思議な泉である。

スタジオ102前のホワイトボードの収録スケジュール

左から、今回の取材を担当した本間一成ディレクター、
有吉伸人チーフプロデューサー、
山口佐知子フロアディレクター。
打ち合わせ中。

衣裳の上田さんが選んでくれた今日のスーツ。

石井裕さんを囲んでの収録準備

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コメント

こちらにコメントするのは、初めてなので
少しドキドキします!

昨日の浦沢さんのお話も、創作をすること
自分の中にあるナニモノかを表現することの
厳しさを教えてくださいました。

「競争原理」の意味するところやその違いについて

また「喪失感」のお話も、とても興味深く感じます。

今から、放送が楽しみです!!

そういえば、小さい子どもって「いないいないばぁ」が
ほんとうに好きですよね~~

投稿: 風待人 | 2007年1月19日 (金) 15時47分

競争というものの意味合いが、米国と日本では違うことが、これを読んで改めて確認できた。

日本はどうしても既に敷かれたレール上での、たんなる点取り椅子取りゲームに終始して、独創性の芽をわざわざ摘んでいる。実に勿体無いばかりだ。

米国は、「それまで誰もやらなかった分野を切り開いた」ことが評価される。独創性が湛えられる風土なのだ。

もうすこし、いまの米国を見習って、独創性を評価するようになれば、日本のエリートももっとよくなるのかもしれない。

さて、写真を拝見しまして、スタジオの中での皆様の真剣な表情とたたずまい、鏡の前でご自分を撮影しているダンディーな茂木先生のお姿(いゃ~なかなか好い男に撮れてますねぇ…!)などなど、『プロフェッショナル』収録現場の熱気が伝わるスナップばかりで非常に好いです。

投稿: 銀鏡反応 | 2007年1月19日 (金) 22時13分

はじめまして。
プロフェッショナル、アートディレクターの方がゲストの時のみ録画して見ています;;。
BRUTUSの特集とても面白かったです。
茂木先生と学べる学生が羨ましい。
一度話をしてみたい人ランキングベスト10に入ります。
僕も、
スーツの写真が良かったのでコメントを残します。

投稿: TKOT1 | 2007年1月21日 (日) 04時26分

「競争原理」のお話、勉強になりました。僕も今の職場でのパイオニアを目指し、頑張っていきたいと思います。

投稿: パレア小林 | 2007年1月21日 (日) 14時41分

今、私はフリーターです。会社はチェーン店なので、店同士の間にも競争があります。でもフリーターである私は、ある意味、お店の規則というルール、ないしレールの上で仕事をしているのいで、ある分野でのパイオニアとか、そんな活躍をされている方はただただすごいなぁと圧倒されるばかりです。
それでも、プロフェッショナルをみるたびに、今の私が、そこでできることを見つける力を与えられます。立場がどうあれ、そこで生きてる私が、周りの人にしてあげられること。そのヒントをこの番組で見つけることが最近の私の楽しみだったりします。
茂木さんの本質をついた質問やコメントは、番組のスパイスです。
一視聴者として、与えられた感化をまわりに反映していけるよう、私も頑張ります。
ありがとーございます!
いつも思ってること、少しでも伝えたくて、コメントしてみました。(^-^)

投稿: まるめろ | 2007年1月24日 (水) 16時00分

このブログの存在は知っていましたが、今日改めて見て一つ別にされた理由がわかり茂木さんの懐の深さを感じました。

今年に入って「プロフェッショナル」で放送された中で弁護士村松謙一さんのが大変反響があり累計アクセス920(1/26現在)、拙ブログとしては一番累計アクセス数が多い記事です。

やはり弁護士村松謙一さんの人間性が共感を呼んだのだと思います。

投稿: morien | 2007年1月26日 (金) 10時10分

石井さんの仕事に対し、永年、尊敬というレベルを超えて、ある種の畏怖を持って拝見して参りました。人間が、何のために、誰のために仕事をするのか、一つの明白な回答が、それもおそらく日本ではほとんど見ることの出来ない例として、提示されているような気がするからです。
今回の放送が大変楽しみです。茂木さんと石井さん、日本が世界に誇る天才二人の対談、歴史に残るものになるでしょう(^^;)

投稿: saera | 2007年2月 5日 (月) 10時04分

小布施ッションでご一緒させて頂きました南雲です。
今回のプロフェッショナルは自分にとってどんな風に生きて行くかヒントを掴むことが出来、すごく刺激になりました。
石井さんや茂木さんとは程度は違いますが、凡人は凡人なりに出来る事はあるし、しなければいけないと思います。
番組の中で石井さんが語った言葉の中で『他人の2倍動く』という言葉や、『がむしゃら』という今の日本ではあまり聞かなくなった言葉を聞きうれしくなりました。
これからも『がむしゃら』に生きていけたらと思います。

投稿: なぐも | 2007年2月 9日 (金) 11時20分

石井さん、とても おしゃれな方なんですね。
特に、眼鏡がステキでした。

MITでの辣腕ぶりや鋭い眼光と違って、
スタジオではとても穏やかで、コントラストに驚きました。
お話しぶりにも、その内容にも、謙虚なお人柄が感じられました。

「落ち込むこともある」とおっしゃっていましたが、
本当に、ものすごいプレッシャーだとおもいます。
情報化社会が端緒についたばかり、ということを実感させてくださいました。

「life is short」という覚悟が、「越える壁は、自分」
「未来にどういう よい影響を与えるか、インパクトを残せるか、
そこまで真剣に考える」
ということの原動力になっているのかもしれませんね。

投稿: suzaku | 2007年2月10日 (土) 07時47分

life is shortとは、非常に深い言葉ですよね。人はそう思えるからこそ、一瞬一瞬にその人の魂をつぎ込めるのではないかと思いました。life is shortは悲観論ではなく、人間が人間であるためのポジティブな考え方ではないでしょうか。”限りがある”というのは人間にとってとても深い意味がありそうですね。
番組では気づかされることが多く、毎回楽しみに拝見しております。
今後も期待しています。

投稿: おはし | 2007年2月12日 (月) 12時49分

はじめまして、トラックバックさせていただいたguyberと申します。
幾度もトラックバックを送信してしまい、大変申し訳ありませんでした。

毎回逃さずに拝見させていただいております。プロフェッショナルの言葉、魂を感じながら自分で反芻して数百分の一でも糧にしようと思ってます。
これからの番組も楽しみに拝見させていただきます。

投稿: guyber | 2007年2月16日 (金) 17時16分

はじめて書き込ませていただきます。
MITの石井さんの回は最高によかった。自分は人文系の研究者ですが、石井さんの研究への信条、向かい合い方、すばらしいの一語に尽きました。こんな研究者になりたいと思いました。
また、茂木さんの日米の「競争」の意味の違い、あれは鋭い質問でしたね。目から鱗でした。
この回はプロの研究者である石井さんと茂木さん、お二方のすばらしさに触れた気がしました。
機会があればまた別の機会に石井さんを採り上げてくださいね。そして茂木さんにすばらしい質問をしていただきたいと思いました。

投稿: bear S-size | 2007年2月26日 (月) 06時09分

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